今日の一言「知識汚染」

どうも,「今日の…」が流行っているようなので,私も(笑).

今日は,第2回体験記録とその応用シンポジウムに行ってきた.

http://www.cyber.rcast.u-tokyo.ac.jp/archive/sympo_2005.html

まあ,本来はこれはユビキタス系というか,ウェアラブル系というか,そういうシンポジウムである.しかし特筆すべきは,NTTの有名な認知心理学者である野島久雄さんが仕切っている部分で,そこがもう絶対見逃せないくらい面白いのだ!

それで,今日忘れられないくらい記憶に残った言葉は,彼が招待した講演者である東京大学御厨貴さんの発した「知識汚染」という言葉である.

彼は,政治史研究の一環として,オーラル・ヒストリーを研究している.これは,「公人の,専門家による,蛮人のための口述記録」と定義できるのだが,政治家や官僚に,長期間(一年くらい)かけて対話を繰り返して,それを資料化し,さらに組織や制度のあり方,組織文化,政策の選択肢,その時代の雰囲気などを明らかにするために用いる.たとえば,彼は宮沢喜一(元総理大臣)のオーラル・ヒストリーを作成したそうである.

もちろん,容易に想像できるように,この作業は簡単ではない.TV局の短時間のインタビューのように,始めに結論ありきのようなものではなく,できるだけ忠実に相手の考えを取り出さなければならない.さらに,相手は必ずしもすべてしっかり覚えているわけではないし,言いたくないこともあるだろうし,老人特有の物忘れや同じことの繰り返し,沈黙などがある.

特に困難な問題の一つとして挙げられたのが,知識汚染である.これは,特に知識欲が強い,向上心が強い人によく見られる現象だそうだが,完璧を目指すあまり,インタビューを受ける前に,その日のテーマをしっかり調べ直してしまうことがよく見受けられるそうである.その結果,実際に体験していないことまで言ってしまう,自分の意見ではなく一般的な意見や公式見解を言ってしまう,もっとひどくなると事前に部下に調べさせた資料を読み上げてしまうような問題が発生することがあり,情報がゆがめられ,本音や真実を引き出せなくなってしまうそうなのだ.

私は,同じような現象は,さまざまなところで見受けられると考えている.

たとえば,研究者には,勉強熱心すぎる人は向かない.というのは,過去の論文を調べすぎて,それに捕らわれてしまうことで,研究が単なる後追いになったり,自分で何もしないで批評するだけになってしまうことがあるからだ.勉強ではなく,研究熱心…つまり,自ら行動することを優先しなければ,新しいことは見つけられない.

管理職にも同じことが言える.たとえば,某日本企業のある上司がその分野で知らぬ人がいないほど有名で優秀な部下の新しい研究を「これは10年間からダメだってきまっているんだ!」と全面的に否定した結果,世界的に超有名な某IT企業に引き抜かれてしまったことがある(苦笑)確かに彼はその分野の過去の研究を少しだけ知っていたのだが,実は最近画期的な発見があり,その分野の研究が業界を問わずに非常に盛んになっていること,また北米のベンチャー企業で同様の発想に基づくサービスが盛んに開発されているなどの事実は知らなかったのだ.

組織としては,ある一流会社が東大からの新卒採用を大幅に増やした結果,業績ががた落ちしてしまった例が該当するかもしれない.優秀な人間を大量に採用したはずなのに,一体何が悪かったのだろう?

つまり,「知識汚染」とは,必要以上の知識を得てしまうことにより,自ら知識を損なったり,発想や判断力,洞察力,直感などを縛って無効にしてしまうことであるとも言える.これを防ぐためには,細心な配慮が必要なのだ.