新・TCP/IP入門(2)

インターネットマガジンの村上健一郎さんの記事.特に図5の「IPv6は深い溝を超えられるか?」(95ページ)がいいなあ…と思ってよく見たところ…な,なんとIPv6が落とし穴をすでに超えちゃっているじゃないですか!これって本当?

…と思って確認したら,実は提出した原稿を,後から編集部への深謀遠慮(苦笑)により落とし穴を超えたように書き直したらしい(以下自粛).

なお,現Cornell大学教授のPaul FrancisはIPv6の設計者の一人だが,実は彼は肥大化・複雑化したIPv6に非常に疑問を抱いていた.そして,そのアンチテーゼとして考案したのが,今その辺の数千円のブロードバンドルーターにもふつーに組み込まれているNATである.

ftp://ftp.isi.edu/in-notes/rfc1631.txt

これは,IPv6のさらに次世代技術が,実はすでにあなたの手元に届いていると言えるのかもしれない(まるで,Multicsに対するUnixみたいな話だ).

実は,当時は単一でフラットな世界をすべての人が望んでいるという考えが主流だった.村上健一郎さんはPaul Francisの上司だったが,当時は彼もそう考えていて,NATをどう思うか?と打診されてた時に,それは駄目だと否定してしまったらしく,それに対する反省文がこの記事にも書かれている.

つまり,単一なフラットな大世界ではなく,小世界が複雑に相互結合するという,まさに"Internet"の根幹を成す概念を捨てようとしてしまったわけだ.もし,NATのアイデアを元に商売していれば,どこかのように毎年総務省の予算を数十億も使うどころか(苦笑),彼らは億万長者になっていたに違いない!まったく惜しい.

Semantic Webなどもそうだが,「単一できれいな世界」を指向する技術は多いが,実に実現が難しく,普及に至っていないものが多い.しかし,ネットワーク科学の研究をしてみると,実は実世界の複雑な挙動や,生物の知的と思われる動作は,ヘテロな個体から成るネットワークにおける相互作用が生み出すことが多いことがわかる.

技術者としてきれいな技術を志向する気持ちはわかるが,「複雑できれいな技術」ではなく,単純な技術が生み出す複雑な相互作用をめざすべきではないか?と個人的には思っている.