人名用漢字

川端さんに無理を言って「東洋学へのコンピュータ利用第16回研究セミナー」の予稿集を送ってもらった(その代わりに,彼の部署の新人の研究テーマのアドバイザになっているのだ).これは,結構面白い発表ばかりなのだが,とりあえず今日話題にするのは,「要望から見た人名用漢字」という国立国語研究所笹原宏之さんの発表.

人名用漢字については,2002年に放送されたテレビ番組がきっかけで,人名用漢字部会が設置されて拡大が検討されているが,これは要望の分析で,以下の点が興味深かった.

  • 命名の流行は常に存在したが,最近は芸能人の芸名や漫画の登場人物の名前が,命名にかなり影響を与えているらしい.
  • マンガなどでは,物語世界を構築するために,あえて実在の名を避けようとすることがおこなわれるが,これが逆に新たな文字の流行を引き起こすことがある.特に際だった影響を及ぼしているのは,板垣恵介北条司CLAMP高橋留美子だとか.
  • 異体字の要望の影には,旧字体へのこだわり以外にも,画数による姓名判断の影響もある.
  • 読みを最初に決めて,次にパソコンや漢和辞典を使って(画数はチェックしても)意味は調べずに構成要素や配置,バランスで字体を決める人もいるらしい.その際に,イメージや感覚(かわいい,きれい,かっこいい)が重要視される場合も増えている.
  • 発音が先の場合には,たとえば発音と画数の組み合わせには,文字が非常に限られるものがあり,そのような組み合わせに対して追加要求がある.
  • 構成要素としては,中国では人偏や女偏,木偏,草冠などが好まれるが,日本に同様な傾向がある.
  • 植物名や動物名などを意味する具体的なイメージを持った文字が好まれるらしい.たとえば「苺」.
  • 特定の地域や社会でのみ使われるような地域限定文字が存在する.たとえば,「栃」,「茨」,「釧」,「湘」など.これらの文字はどの地域で要望が多いのか想像できるだろうが,すごいのは「閖」.これは仙台藩主が作った文字で,宮城県名取市近辺でしか使われていないそうだ.

結局,人名に用いる漢字は一旦大幅に制約されたのだが,特に昨今のコンピュータの進歩は名前の多様化に拍車をかけているようである.この調子でいくと,JIS X 0213Longhornで普通に使えるようになったら,さらに多くの要求が出てくるかもしれない.