JIS X 3015 プログラミング言語C#

社団法人 情報処理学会 情報規格調査会は,JIS X 3015 プログラミング言語C#を3月20日に制定し,3月22日に公示した.ただし,日本規格協会から規格書が出版されるのは4月に入ってかららしい.この報道発表と懇親会が京王プラザホテルであった(これはMicrosoftの出資で,こんなに派手なのはJIS規格として初らしい)ので,関係者として参加してきた.つまり,実は私はこの委員会の委員だったのである.

私が情報規格調査会調査会に関係したのは,もう何年も前に日本のJTC1の委員長である早稲田大学の筧教授に,次のようにISO/IEC JTC-1 SC-22 Java Study Groupへの参加を頼まれたからだ.

  • 日本は,現在のソフトウェアの分野で孤立しつつあるが,これは非常にまずい.今後業界の中核となる技術に,直接価値ある貢献をしなければいけない.
  • 業界標準となる技術に,日本として早期から積極的に関与して,日本にとって不利益となるような問題が生じないようにしなければいけない.

結局,Java言語の標準化にISO,そしてECMAと関係し,私はそこで国際化に関する問題点を検討し,指摘してきた,しかし,残念ながらJCPという標準化組織に作業が移ったことで,Java Study Groupは解散し,私のJavaに関する活動の場もJCPに移ることになった.

ところが,Microsoftから,C#の言語仕様をレビューして欲しいという依頼が,委員長の黒川利明や私のところに持ち込まれたのだ.黒川委員長の,Java言語仕様の早期にあったような問題点をC#言語では存在しないようにしたいという判断で,早期からJIS化が決断され,私も参加を依頼された.

特筆すべきは,日本の委員会は待ちではなく,攻めの姿勢でいたことだ.C#の仕様そのものは,ECMAという標準化組織で策定して一旦ECMA規格とした後に,ISOにファーストトラックで提案されてISO規格にするという手続きを経る.そこで,Microsoftの委員と委員長の黒川がECMAの議論に参加するとともに,ECMAの議論と並行して翻訳をおこなった.もちろん,単に翻訳しただけでなく,仕様変更を提案したり,見つかった数十(たぶん100は超えなかった)もの問題点をフィードバックし続け,日本の委員会の貢献はECMAやISOの委員長から感謝されることにもなった.

今年度はCLIのJIS化をおこなっている.が,私は参加していない.これは,とりあえず問題となりそうな言語仕様はすでに修正したこと,私自身が博士号取得なども抱えていて忙しいことと,会社が標準化作業などの直接利益が得られないことに消極的になってきたことによる.

結局,JCPを含めて標準化は何の役にも立たないという判断なのだが,これは私の研究所はハードウェア研究者が掌握していることと,実装は下請けメーカーまかせで現場の経験や知識がない人たちが多いことが原因なのだろう.これは私の会社の日本の科学技術に貢献するという法律で定められた使命(特殊な会社なのです)が自然消滅したということでもある.いくら使命感を持ってマイナス評価をものともしないで活動しても,やはり泣きたくなるので,早くこんなことに悩まないで済むようになりたいものだ.