キーボード配列QWERTYの謎(NTT出版)

ある日,会社の机の上にあった小包を開けると,中に安岡先生のブログを見て興味を持っていたこの本が!…安岡先生,どうもありがとう!!

キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

本書は「QWERTY配列はタイプライターの機械的トラブルを回避するために,意図的に打ちにくいように設計されている」という,未だに信じている人が沢山いるようなまことしやかな嘘がどうして生まれたのか?という謎に,タイプライターの誕生からドキュメンタリータッチで迫っていく本であり,約200ページもあるが,最後まで非常に楽しく読むことができる.
本書では,我々が普段慣れ親しんでいるキーボードについて,以下の重要な事実が明らかにされる.

  • キーボードはどのように誕生・発展したのか?
  • タッチタイプを始めたのは誰か?
  • シフト機構はなぜ生まれたのか?
  • どのようにQWERTY配列に統一されていったのか?
  • 文字コードはどのように生まれたのか?
  • 同じQWERTY配列でも,日本とアメリカで記号の位置が異なるのはなぜか?
  • ドボラック配列は本当に効率的なのか?
  • なぜコンピュータのキーボードはQWERTY配列なのか?

なお,誕生初期の資料が残っていないキー配列を,残っている手紙のタイプミス(その当時のキーボードは相当打ちにくかったのだと思われる)から推測していたり,QWERTY配列の歴史は,ユーザのものではなく,生産者側の論理による押しつけの歴史であったと最後に結論づけているのは興味深い.参考文献リストが16ページにも渡ることからわかるように,徹底的に証拠を集め,複数の証拠を照合することで,今まで語られていた事柄を客観的に一つづつ検証しており,学術的にも価値があるのだが,コンピュータを日常的に使っている我々なら,読んでいて非常に楽しいし,思いがけない発見が沢山ある.特に,キーボードや文字コードにこだわりを持つ人達は一度読んでみる価値はあるだろう.
私は,本書は同じ著者らによる「文字符号の歴史 欧米と日本編」の続編,つまり一章「電信符号の歴史」の前の章に当たる…つまり,あの本で書き残したことを,本書で書いているのかもしれないと感じた.としたら,あの本の後の話も,きっとそのうち書いて頂ける…と期待するのは酷な要求だろうか?(笑)

文字符号の歴史―欧米と日本編

文字符号の歴史―欧米と日本編

さて,この種の「嘘」の伝播現象は現在でも見かける.たとえば,最近村田真氏のブログで,OOXMLの標準化に関する報道に誤りがいかに多いかを嘆いているが,私もJavaの標準化で同様な経験をしたことがある.単なる誤解が発端ならまだしも,それ以外の理由から意図的に誤った技術論をいかにも本当であるかのように喧伝する行為はあってはならないし,また我々としては本書の教訓を生かして,そういう行為を発見し,対処していかねばならないだろう.