Webが生み出す関係構造と社会ネットワーク分析ワークショップ(京都大学)

前からATRの湯田聴夫先輩(←湯田さんは同じ研究室の博士課程の先輩なのだ)に来いと強く誘われていたのだが,書類を出し遅れてしまったことと,昨今の情勢から発表無しの出張を認めさせるのは難しいかなあとあきらめていた.

しかし,金曜日に産総研の松尾豊さんを訪問した時に,ワークショップの予稿集を頂き,安田雪先生との共同研究の発表スライドの草稿も見せてもらって,この内容だとぜひ行かねばならないかなあ…と,日曜日の夜中に決意し,4:00AMに起きて京都に向かった.

で,肝心の内容は,mixiのデータ分析.mixiのデータを貰って分析しているのは,東京大学柴田尚樹さん,産総研の松尾さん,ATRの湯田先輩の三カ所で,それが一堂に会するのだ.しかも,今後はeMercuryはもうデータを出したくないと言っているらしく,SNSが流行したとしても,今後もこの種の研究ができるかどうかはわからない.

一言で言えば,非常に面白かったと共に,いろいろ考えさせられた.では,私見を加えて簡単にまとめてみよう.

まず,印象に残ったのは「mixiは経済的合理性を反映しないネットワーク by 安田先生」という指摘.社会ネットワークの研究者からすると,SNSは人間関係の構築と維持にほとんどコストが関わらない点が許せなかったりするらしい.人間が維持できる人間関係には限界があるのに,コストがかからないからと人間関係拡大に走る人間が存在するのはよく知られたところで,「(マイミクシイが)1000人規模の人には人格がない by 安田先生」という名セリフもある.実際に,上位99人を取り出して可視化していたが,かなり密に結びついているのがわかる.

私見では,SNSが経済的合理性を反映できないのは,SNSの本質ではなく,単なるシステムの欠陥だと思う.たとえば,有名人や専門家は,自分が認識している人間関係はかなり限られている.それは簡単で,人間関係を維持するのは非常にコストが掛かることを日常で体験しているからで,マイミクシイを増やしたいどころか,限定したいと思っているはずだし,あまり仲良くない人がアクティブすぎると,その情報を追うのもいやになってくるはずだ.「親密なコミュニケーションを取ろうとすると,範囲が小さくなる by 大向先生」という意見もある.

これが,人間関係が潜在的に持つ多義性を一意に扱ってしまう…つまり恋人(夫婦),親族,友人,会社の仲間などの,本来別に扱わねばならないような人間関係を区別できないという問題により,さらに深刻化してしまうのだ.この対処は二つ考えられ,一つは人間関係を限定する…つまり,会社や団体のような単位でSNSを作ることであり,もう一つは経済的合理性や多義性を許容することだ.後者は面白い研究課題だと思うが,難しいので,しばらくは前者が増えてくるのかもしれない.

また,友人関係が3より小さい人が35.7%,4より小さい人が43.4%らしい.mixiはインビテーションにより加入する上に,人間関係を広げるのが目的なので,基本的に連結性が高いと予想するが,実は積極的に人間関係を広げる人ばかりではなく,脱退する人も多いことから,小規模な孤立した人間関係が沢山生じるらしい.まあ,入ったけど,ろくに使ってない人も多いだろう.他に,私と同じ研究室の修士の学生に聴いたのだが,彼女は単に就職先の内定者のコミュニティに入るためだけにmixiを使っているらしい.つまり,私見では,人間関係としては孤立しているが,特定少数のコミュニティを介して繋がっているという現象も結構起こっているのではないかと予測している.どちらが支配的かについての分析は,今後の彼らに期待したいところだ.

さらに,三月のネットワーク生態学の研究会での湯田先輩の発表のmixiにおける三層構造の研究は進み,グラフにした時の次数が10付近で発生する不思議なギャップとして明確化されていた.さらに,彼らはCNNモデルなどを使って再現しようとしていたようだが,まだうまくいかない様子.彼らは,既存交流転写<->新規ネット交流という対立する要素を考慮に入れようとしているが,私見では,mixiのインビテーションという仕組みも関係している可能性があると思っている.つまり,誘って貰えないと入れないという仕組みは,人を誘った時に自分の周囲の人間を誘った後に一旦停止するというような行動を取ったりするので,この辺をモデル化できないかと思うわけだ.

あと,東工大の村田剛志先生と昼食中に話していたのは,公的情報だけでなく,私的な情報が含まれてくるので,Webやブログに比べてSNSの解析は難しいなあということ.Webやブログのネットワークの特徴量をプロットすると比較的統一性があるのに対して,SNSは対立する要素が存在するからか混合パターンとしてプロットされているように見える.SNSのネットワーク解析結果をシステムで利用するためには,これらの詳しい解明が必要だが,まだまだ時間が掛かりそうである.

追記:記事が掲載されたようだ.

http://bb.watch.impress.co.jp/cda/event/11039.html

さらに追記:
私が普段から思っているのは,デジタル空間では実空間と違い,人間の行動の観測が容易なのだから,そこで何をやっているのかがわかれば,システムの設計の見直しや変更の影響の確認が効率的にできるし,他企業を出し抜く新しいアイデアを生み出すことさえ可能なのだし,今回もその可能性を感じた.ところが,eMercuryも,そのような方向には積極的ではないようだが,今回の話も海外からは注目されているようだ.

結局,優れた人材や技術は海外に流出して,それを逆輸入することでしか日本では評価されないのかなあ…と思うけど,それは本当にもったいない話だと思うのは,私だけ?(←だいたひかる風に)