Googleでは論文が書けないのか?

梅田望夫さんのブログに,以下のように書かれているが,

余談だが、先日、友人のComputer Scientist(Googleに勤めていない研究者)と話をしていたら、彼はこんなことを言っていた。
「確かにGoogleは素晴らしい。研究環境は最高だ。でもGoogleに入った瞬間から、研究者は一本も論文を出さなくなる。Googleのサイトにこんなたくさんの論文が・・・と出ているのは、皆、彼らがGoogleに入社する前に書いたものだよ。そういう閉鎖性にはものすごく抵抗があるんだ。だから自分はオープンソースでやりたいんだ」

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050730/p1

さすがに,ここまで言ってしまうと言い過ぎだろう.分野が違う研究者か,少し古い話を聞いたのではないかと思う.たとえば,次のように2003年ごろからは論文が投稿されはじめており,さすがに皆無ではない.

  • Luiz André Barroso, Jeffrey Dean and Urs Hölzle: Web Search for a Planet: The Google Cluster Architecture, IEEE Micro, Volume 23, Issue 2, p.p.22-28, 2003.
  • Sanjay Ghemawat, Howard Gobioff, and Shun-Tak Leung: The Google File System, 19th ACM Symposium on Operating Systems Principles, 2003.
  • Jeffrey Dean and Sanjay Ghemawat: MapReduce: Simplified Data Processing on Large Clusters, OSDI'04: Sixth Symposium on Operating System Design and Implementation, 2004.

もちろん,確かに優秀な研究者でも,Googleに入社した後に論文を書くことはほとんどない.ただ,これはベンチャー会社の研究所では,さすがに論文を書いていればよいというわけにはいかないという影響が大きいかもしれない.

実際,この種の疑問を持つ人は多いようで,ある学生が「Googleに入ったら論文は書けないのですか?」と質問したのに対しては,「別に禁止してはいないのだが,忙しくてなかなか書こうとしないようだ.」と返答していた.どうも対外発表の可否も厳しくチェックされているようなので,この言葉をそのまま受け取るわけにはいかないが,これも理由の一つであると思う.Googleに入社した研究者は,革新的な(面白い)プロダクトの開発に関わるわけだし,そもそも企業研究者にとっては,論文は将来の大学への転職には役だっても,それが企業内で評価されることはほとんどないからだ.

なお,私は近年Googleの秘密主義が多少和らいだのではないか?と感じている.その証拠は,論文発表を再開したことや,著名なオープンソース開発者の雇用開始にある.これは,IPO後に継続して優秀な研究者や開発者を確保するための施策の一環なのかもしれないと思っている.

追記:
このような誤解が生じた理由は,

Googleのサイトにこんなたくさんの論文が・・・と出ているのは、皆、彼らがGoogleに入社する前に書いたものだよ。

たぶん彼が見たというGoogleの論文リストが次のページだからではないかと思う.

http://labs.google.com/papers.html

以下のようにちゃんと書いてあるように,これはGoogleにこれから転職する人が参考になるように掲載されている,すでにGoogleに転職した人が入社前に書いた論文リストである.つまり,ここにはGoogleの社員が書いた論文は掲載されていないのだ.結局,彼の単なる勘違いなのかもしれない.

Below is a partial list of papers written by people now at Google, showing the range of backgrounds of people in Google Engineering.