ハッカーの定義

「対人能力」が「人間に対する興味」と同じ,あるいは似ているという前提だとしたら,「今のグーグルの技術陣ってのは、「対人能力なんてものは要らんのだ、頭さえよければ」というタイプのハッカーにとっての「最後の楽園」という感じがする。」という言葉が出てくるのは,少しおかしいのではないか?

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050622/p2

たとえば,「ソフトウェアを創造するためには,哲学を持たねばならない」,「哲学を持たない奴は,ここから去れ」が,私の師の一人である村上健一郎氏(日本で一番最初にTCP/IPスタックをオブジェクト指向言語で実装した人間で,有名なLispハッカー竹内郁雄氏の愛弟子)の言葉である.

結局良いソフトウェアを作るためには,技術や知識は単なる道具に過ぎず(もちろん,それを使いこなせなければならないが),システムはいかにあるべきかという明快な意思が必要であり,その一番の指針が対象を理解すること…つまり人間を知ることであるのだ(その点はRingo氏の意見に同意する).

日米で優れた実績を出した人間達は,つきあってみると非常によく物を知っているし,芸術に対する関心も高い.結局,ソフトウェアを創造する力は,膨大な知識と経験と強い意思によって支えられているので,逆に知識単独や技術単独でやっていけるものではない.MacintoshのQuickDrawルーチンやMacPaint,そしてHyperCardを生み出したBill Atkinsonが現在は写真家をやっているが,これも珍しいとは言えないと思う.

また,特に重要なのが「バランス感覚」だと思う.きれいな設計でも遅すぎるのは困るし,逆に実行速度が速くても場当たり的な実装を頻繁にしなければいけなくてコードがスパゲッティ化するのも困る.必要なものは入れ,必要ないものはばっさり切り捨てる…そしてその結果が実用に耐えるものでなくてはいけないが,このバランスを取るのが結構難しいのだ(ちなみに,日本人は切り捨てるのが苦手な人が多い).

で,そういう人間が沢山集まっているのがGoogleだと思うのだ.少なくとも,私の知る限りでは.

ただし,このような人間が日本にいて,(特に大企業に)受け入られるか…というと,必ずしもそうではない.これは,速い暴れ馬を乗りこなすよりも,多少遅くても従順な馬を抱えたいという日本企業の特質があるからだ.そのために,優秀な日本人技術者は,Googleを含めた北米企業にどんどん流出していく.

また,Richard Stallmanが金を稼げているか?を考えてみればわかるが,超一流ハッカーは哲学者や芸術家と同じ分野に属するために,優れたものを作りだし,それによって多くの人に恩恵を与えることはできても,必ずしも営業的に優れているとは限らないこともある.

そういう意味では,Ringo氏が言う政治力は,私が言う哲学よりも梅田さんの「対人能力」に近いのかもしれないが,同じでもないと思う.