「「絵文字の議論は、これでいいのだろうか。」へのお答え」へのコメント

小形克宏氏は,残念ながら山本太郎氏が「絵文字の議論は、これでいいのだろうか。」で言いたかった真意を誤解しているように見える.
「絵文字の議論は、これでいいのだろうか。」へのお答え(もじのなまえ)
山本氏の指摘にもあるように,実は小形氏の発言の「攻撃的な」姿勢と事実と異なる推測は,すでにいろいろなところで問題にされている.例えば,GoogleUnicodeコンソーシアムは,本当に「世界征服を目論む陰謀組織」なのだろうか?(笑)
この原因は,小形氏が今回の事情を勘違いしていることにあると思っている.いつかは直接の関係者から真実が知らされると思っていたし,今まで得られた情報を分析すれば容易に気が付くだろうとも思っていたが,さしつかえないと思う程度まで事情を書くことにする.
今回の提案の大元は,Gmailの携帯絵文字対応である.これは,日本のキャリアや日本の携帯ユーザからの要望を受けて,Google Japanがおこなった仕事である.
モバイル Gmail が携帯絵文字に対応しましたGoogle Japan Blog)
この成果を,他の人も使えるようにしようという話が持ち上がり,日本人エンジニアがGoogleの20%ルールで始めたのである.この際に絵文字の標準化の話が持ち上がりUnicodeコンソーシアム関係者に協力してもらったり,同様にソフトバンクからiPhoneの絵文字サポートの強い要求を受けていたアップルがソフトバンクの絵文字を中心とした独自の提案を持ち寄って擦り合せたりしたのである.この辺の事情はGoogle Japan Blogにも書かれている(関係者の貢献をはっきりさせるためだろう)ので,公開されている情報だけで推測がついた人は多いだろう.
絵文字のユニコード符号化: 符号化提案用のオープンソースデータGoogle Japan Blog)
絵文字の Unicode 符号化に関するアップデートGoogle Japan Blog)
冷静になって考えて頂ければ,結局は日本のユーザとキャリアの要望を受けて,日本人エンジニア達が中心となって作業をおこなっていることがわかるはずだ.たとえば,「Google絵文字符号化グループ」にいるエンジニアは誰だろうか?別に「Google」や「Apple」,「Unicode Consortium」という組織名がついたからといって,何も変わらない.標準化の目的は,よりよい仕様を作ることであって,勝ち負けではない.その辺は勘違いしないで頂きたいと思う.
今回は小形氏はGoogleの公式窓口にしかコンタクトせず,実際に作業を行っているエンジニアにインタビューしたいという要望は出さなかったために,彼らとしては何も説明することはできなかったと聞いている.しかし,GoogleUnicodeコンソーシアム陰謀説(笑)を信じずに,普通に取材を申し込めば,もっと詳しい事情を説明してくれたはずだ.
なお,これは強調しておきたいが,今回の小形氏らの貢献を私個人は高く評価している.彼らが指摘した問題が生じたWG2ダブリン会議におけるアイルランド・ドイツ提案は,単なるグリフの違い以上に,携帯絵文字サポートの互換性を阻害するものであった.そもそも,携帯絵文字のサポートと互換性が目的のレガシーな提案だったはずなのに,それを他の目的に使いたい人達のためにそれが阻害されてしまっては,そもそも何のために提案したのかわからなくなるし,少なくとも致命的な問題は今後の会議の流れで訂正されなければいけないと考えられていた.
そのために必要なのは,携帯絵文字を使う日本人による強い必要性と問題点の主張であり,それがないと日本代表としても強い態度に出れないのだ.そういう点で,今回の提案は非常に有用だったと思う.
最後に,そもそも上記のような経緯なので,山本氏が心配している携帯電話キャリア各社のコードとUnicodeマッピングは提供されるだろう.一部でWG2で議論したいという意見もあるようだが,個人的には従来通りUnicodeコンソーシアムから提供した方が作業が早いと思っている.